東京大学インドカレーサークルインカレ

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精神物理学からみるインドカレー ~スパイス5倍で辛さ5倍ではない?~(後編)

こちらの記事はUT-INCURRY Advent Calendar 2017 - Adventarの7日目の記事として書かれました。

こんばんは、あどみすです。インドカレー(以下インカレと略す)が食べたいので先日の #インカレ の画像を上げておきますね(^^)
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今日の記事は、精神物理学からみるインドカレー ~スパイス5倍で辛さ5倍ではない?~(前編) - 東京大学インドカレーサークルインカレの後編となります。先にこちらを読むことをオススメします。


ヴェーバー-フェヒナーの法則の例

前回の記事で導入した『ヴェーバー-フェヒナーの法則』ですが、はたして本当にこのような法則が成り立っているのか疑問に思う人もいるでしょう。
ここで、感覚が刺激の量の対数で感じられていることを示す例をご紹介します。

星の等級
星は、明るい星は1等星、そこから暗くなるにつれ2等星、3等星…と等級がつけられています。
この等級、古代ギリシアは最も明るい星を1等星、最も暗い星を6等星とし、その間を均等に分けて制定しました。
ところが、今の定義では……

等級が1等級変わると明るさは100の5乗根、すなわち約2.512倍変化する。(中略)言い換えれば等級とは天体の明るさを対数スケールで表現したものである。 (Wikipedia『等級(天文)』より)

ここに、ヴェーバー-フェヒナーの法則でもあった対数が出てきます。このように、見た目の明るさの感覚と対数は非常に相性がいいことがわかります。


ジャネーの法則
感覚は五感のみならず、体感時間もあります。
年をとるほど体感時間が短く感じる『ジャネーの法則』も対数が現れます。この記事では詳しくは述べないので、興味のある方は調べてみてください!

現状、人間の感覚は数値化できないためこの法則も絶対正しいとは言い切れません。ヴェーバー-フェヒナーの法則も、割と合ってそうだなくらいのものとして見てください。実際、工学的応用上にはこの法則である程度うまくいっています。google scholarなどで調べてみると面白いかもしれませんよ?

インカレの本当の辛さは?

前置きが長くなりましたが、ここからが本題です。
ヴェーバー-フェヒナーの法則をインカレの辛さにも適用してみましょう。

インカレの辛さの素はスパイスのカイエンペッパー(赤唐辛子)に含まれるカプサイシンです。ほかにもジンジャー(生姜)やブラックペッパー(黒胡椒)で辛さをつけることもありますが、今回は省きます。
カイエンペッパーの量を増やせば増やすほど辛くなることが知られています。
しかしスパイスの量に比例して辛くなるわけではなく、ヴェーバー-フェヒナーの法則よりスパイスの量の対数に比例した辛さを感じる事になります。

よくインカレ屋さんにある1辛、2辛…というように、1辛よりカイエンペッパーを倍入れて2辛、3倍入れて3辛…という風に辛さを作るとします。
さて、ここで辛さをどうやって数値化するか悩みます。ここでは、1辛と2辛を辛さの基準にして、式を求めましょう。*1

1辛と2辛を辛さの基準にします。カイエンペッパー量が倍で辛さが1増えるということなので、n(n = 3, 4, 5...)のカレーの辛さをH_{n}とおくと、

\large H_{n}=1+\log_{2}n

と表すことができます。
この式によると、
3辛は実際には2.58辛
4辛は実際には3辛
5辛は実際には3.32辛
ということになります。思っていたほど辛くなってませんね。

では逆に、目的の辛さのインカレが食べたい場合には、カイエンペッパーをどれほど入れればいいのでしょうか?

目的の辛さを実現するには

文字通り2倍、3倍の辛さを味わいたいときは、カイエンペッパーを指数的に増やす必要があります。

1辛、2辛…という表示の通りに辛さを増したいのであれば、
1辛のインカレに使用したカイエンペッパー量をs_{1}
2辛のインカレに使用したカイエンペッパー量をs_{2}
とすると、n(n = 3, 4, 5...)の辛さのインカレに使用すべきカイエンペッパー量s_{n}は、

\large s_{n}=s_{1}(\frac{s_{2}}{s_{1}})^{n-1}

と表すことができます。
具体的に、1辛のインカレに使用したカイエンペッパー量が1g、
2辛のインカレに使用したカイエンペッパー量が2gだったとき、
3辛のインカレでは4g
4辛のインカレでは8g
5辛のインカレでは16g
10辛のインカレでは512gのカイエンペッパーを入れることになります!
5辛で以前の16辛相当になり、10辛まで来るとただの唐辛子の塊ですね……。

まとめ

2回に渡って長々と書いたこの記事ですが、まとめです。

  1. 人間の感覚の量は、刺激の量の対数によって表される。(ヴェーバー-フェヒナーの法則)
  2. この法則より、インカレの5辛は1辛の辛さ5倍ではなくもっと低い。
  3. 数値通りの辛さにしようとすると、とてつもなく唐辛子を入れる。


以上で、精神物理学からみるインドカレーはおしまいとなります。最後まで読んでくださりありがとうございました!
これからも辛く美味しいインカレ生活を!

あどみす

*1:カイエンペッパーを入れていない0辛を基準にすればいいと思う人もいるでしょう。しかし、ヴェーバー-フェヒナーの法則は対数であるが故に刺激が小さい範囲では感覚が負の∞に近づいてしまいます。前編で述べたように、この法則は中程度の刺激のときのみ適用することができます。